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第8話「聖都に向けて」

last update Last Updated: 2025-11-13 17:55:12

 セリュオスとダルクの後ろには、静かに後ろをついて来るフィオラの姿があった。

 その様子を見る限り、彼女はまだダルクのことを警戒しているのかもしれない。

「……さて、坊主。この町を出たら次はどこに向かうんだ? 俺の力がどれくらい役に立つか、見せる準備はできてるぞ」

「フィオラー! そろそろこの町を出ようと思うから、いいかげん近くに来てくれないかー!」

 セリュオスの声を聞いて、ようやくフィオラが近づいて来てくれる。

 しかし、ダルクとは僅かに距離を取って、セリュオスの傍にやって来た。

 彼女がダルクを見る目は冷たいようにも見えるが、旅の仲間としての期待も宿っているように見えた。

 ただのセリュオスの気のせいかもしれないが。

 そんなことを全く気にも留めていないダルクは斧を背に背負いながら、周囲を見渡している。

 セリュオスは微かに笑みを浮かべ、町の出口の方を見た。

「まずは山を越えて……ドワーフの町を出てからのルートを確かめようか」

「はあ……。次は聖都に向かうって言ったでしょう?」

「あれ、そうだったっけ?」

 セリュオスは僅かに首を傾げた。

 フィオラといつそんな話をしただろうか。

 思い出そうと頭をひねっても、すぐには思い出せなかった。

 とはいえ、それを正直にフィオラに伝えてしまえば怒られてしまうと思い、とぼけることにしたのだ。

「誰かさんがド派手な戦いに集中しすぎて、忘れちゃっただけなんじゃないの?」

「がはははは! フィオラの嬢ちゃん、面白いじゃねえか!」

 どうやら豪快に笑っているダルクはフィオラのことを気に入ったらしい。

 フィオラはまだ警戒しているままなのだが。

 結局セリュオスはフィオラの機嫌を損ねてしまったわけで、それは別のタイミングでカバーするしかないだろう。

 そうこうしているうちに、三人はドワーフの町の石壁を抜けて、広い空の下へ出た。

 見渡す限り石壁というのは面白い光景だった。

 石と煙に囲まれた町から離れた瞬間、フィオラは思わず深く息を吸い込み、肩の力を抜いた。

 長い間閉じ込められていた緊張から、一気に解放されたような感覚だろうか。

「……ふう。やっと、自由になれた気がするわ。あの町は……私には窮屈すぎたわね」

 すると、後ろからダルクが鼻を鳴らす。

 大股で歩きながら、背負っている斧がカランと鳴った。

「窮屈だって? オレの育っ
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